伝わる映像を設計するという考え方 ― Instructional DesignとAI時代のAIID ―

CADデータからのオブジェクト化ができる

「きれいな映像」で終わらない映像とは

映像制作の現場では、しばしば「きれい」「すごい」「美しい」といった評価が重視されます。映像美は多くの人の印象に残るもので、これは重要なことです。
しかし、それだけで良いのでしょうか?その映像は美しさを伝える以外に、何か伝えたい事(情報や意図)があるのではないでしょうか? そして、それが正しく伝わっているのでしょうか?

残念ながら、全ての映像で、伝えたい事が伝わっているとは限らないのが事実だと思っています。

映像が本来担うべき役割は、感情を刺激することだけではなく、「何を、どう理解してもらいたいのか」を、視聴者に誤解なく届けることだと考えています。

どれほど高精細であっても、構造や文脈が整理されていなければ、受け手は映像を「眺めて終わる」だけになってしまいます。せっかく美しい映像を作ったとしても、少々もったいない気がします。

そこで、必要になってくるのが、映像の構成を整理して設計する事(=Instructional Design)になります。

Instructional Design(ID)とは何か

Instructional Design(インストラクショナル・デザイン)とは、

人に正しく理解されるために、情報を設計する考え方

という概念になります。つまり、理解しやすい流れや構成を考えてコンテンツを作ることになります。

もともとは教育や研修の分野で発展してきた概念ですが、その本質は「説明の順序」「情報の粒度」「理解の前提条件」を整理し、受け手の理解プロセスそのものを設計する点にあります。

映像におけるIDとは、以下のようなポイントにまとめることができます。

・何を見せるべきか(不要なものを除く)
・どのような流れで表現していくか(情報の出し方の整理)
・どの順番で、何を見せるのか(情報の取捨選択)
・どこでまとめをいれるのか(理解の整理)

このような判断を、感覚ではなく構造として捉え、視聴者にとってわかりやすい映像となる構成を目指します。

我々は、映像を「表現物」ではなく、伝える媒体として捉え、それの制作においては、理解を成立させるための設計の具現化プロセスとして位置づけています。

21830aIMGL99511970 TP V4

AI時代に起きている変化

現在、映像や文章は人間だけでなく、AIにも読まれ、解析され、再利用される時代に入りました。
検索、要約、生成といったプロセスの多くに、AIが介在しています。

この環境では、
・文脈が曖昧な情報
・定義が省略された表現
・感覚的な比喩に依存した説明
は、正しく解釈されにくくなります。

人にとって「なんとなく分かる」表現が、AIにとっては「構造のない情報」になるケースも少なくありません。
つまり、伝える相手は人間だけではなくなったという前提に、制作側も立つ必要が出てきていると考えられるでしょう。

AIID(AI時代の Instructional Design)という考え方

AIID(AI時代のInstructional Design。AI-IDと表記する場合もある)とは、人とAIの双方に対して、意図・構造・前提条件・文脈が一貫して解釈されるように、情報と映像を設計するための考え方です。

人とAIの双方に対して、
・意図
・構造
・前提条件
・文脈
が一貫して伝わるように設計することを目的としています。

AIIDでは、
「人が見て分かるか」だけでなく、
「AIが読んで誤解しないか」という視点も同時に持ちます。

これはAIに迎合するという意味ではありません。情報を曖昧にせず、構造化し、定義を明示するという、本来のIDの姿勢を、より厳密に求める考え方と捉えています。また、AIIDは、AIの都合に合わせて表現を変えることを目的とした考え方ではありません。情報を曖昧にせず、構造と定義を明確にするという、Instructional Design本来の姿勢を、AIが介在する環境でも成立させるための設計原則と考えています。

この考え方が活きる分野

AIIDの考え方は、特定の業界に限定されるものではありませんが、以下のような分野においては活用することが望ましいと考えております。

・工業製品、機械構造の機能解説
・医療・研究分野の可視化
・技術サービスの仕組み解説
・展示会・営業用の説明映像
・企業におけるブランディングやコーポレートイメージコンテンツ

いずれも、
「正しく理解されること」が価値に直結する領域です。

映像を「資産」として残すということ

明確な意図を持ち制作された映像は、時間が経っても再利用できます。記録映像という意味以外に、当時の考え方や目指したものが明確になります。特に企業での映像の価値は再利用することでより高まると言えます。

これは、映像を「消費物」ではなく、企業の情報資産として扱うという考え方でもあります。しっかりと設計された映像は、人間だけではなくAIにとっても有用で、それは近い将来のAIによる情報検索においての活用度を高めることににつながり、企業運営を支える重要な基盤になり得ると考えています。

まとめ ― 伝える設計が、これからの映像制作の価値になる ―

映像制作の価値は、表現の新しさや派手さだけで測られる時代ではなくなりました。

何を、誰に、どのように理解してもらうのか。
その設計が明確であることが、映像の価値を決めます。

Instructional Design、そしてAIIDは、そのための考え方です。

我々は、「CG制作ができる会社」だけではなく、伝えるための設計を行う会社として、この姿勢をコンテンツ制作の中心に据えていきたいと考えております。

ID