色空間、リニア・非リニアについてまとめてきました、前回から実際の制作ソフトでの色空間の扱いについてまとめています。今回は動画編集で使用されるPremiere Proについてです。
なお、本記事では、Premiere Pro 2025(25.2.3)を使用しております。
はじめに:Premiere Proでも色空間を意識する必要がある理由
Premiere Proは、Web動画やテレビ向けの映像編集に広く使われており、一般的な使い方では色空間を明示的に意識する機会は少ないかもしれません。多くのユーザーは、Rec.709やsRGBなど、標準的な色空間の素材をそのまま扱うことが前提となっているため、カラーマネジメントに触れる機会がないのが実情です。
さらに、Premiere Proはリニア空間での合成を前提としたソフトではなく、scene-linear(物理的な輝度基準)の素材を直接扱うようには設計されていないと考えられます(※この点は今後の仕様変更により変わる可能性もあります)。
とはいえ、CGソフトやVFX工程から出力されたリニアEXR素材、またはLog撮影された映像など、異なる色空間を持つ素材をPremiere Proで扱うケースも増えてきました。そのような場合には、Premiere Proのカラーマネジメント設定を正しく理解し、手動で色空間を指定することが必要になります。
本記事では、リニア素材やLog素材を正しく扱うために必要な手順と、Premiere Proの色空間設定の確認・修正方法について、実例を交えながら解説します。
映像編集においてPremiere Proは業界標準ともいえるツールですが、色空間の取り扱いは自動で完璧に行われるとは限りません。特にCG素材やLog素材、リニアEXRなどを取り扱う場合、Premiere側の誤認識によって色の破綻やトーンの違和感が生じることがあります。
この記事では、Premiere Proでのカラーマネジメントにおける基礎的な考え方と、実際に合成素材を正しく扱うための設定方法を紹介します。

Premiere Proに素材を読み込んだときに起こる問題
Premiere Proは、クリップのメタデータに基づいて色空間(カラースペース)を自動判別しようとしますが、これが必ずしも正しいとは限りません。
起こりやすいトラブル例:
- リニアEXRを読み込んだら、暗く潰れた映像になってしまう
- Log素材を読み込んだら、コントラストが異常に低くて眠く見える
- Photoshopなどで書き出したsRGB画像が彩度高く表示される
これらの原因の多くは、Premiereがカラースペースを誤って解釈していることにあります。
✅ 素材のカラースペースを手動で指定する手順
- プロジェクトパネル内で、対象クリップを右クリック
- [変更]→[カラー] を選択
- 「クリップを変更」ダイアログが開いたら、「カラー」タブを開く(フッテージを変換でカラータグを開いても良い)
- [メディアカラースペースを上書き] にチェックを入れる
- プルダウンから適切な色空間を選択(例:Rec.709、sRGB、LogC、scene-linear など)
これにより、Premiere Proが素材をどの色空間として扱うかを明示的に指定できます。


✅ シーケンス全体のカラーマネジメント設定
Premiere Proでは、シーケンス全体の作業カラースペースおよび出力カラースペースを管理する機能が追加されています。これを適切に設定しないと、素材の色空間が合っていても最終出力で破綻する可能性があります。
以下の手順で確認・変更できます:
素材の設定に加えて、シーケンスそのものの色空間も管理しておくことが重要です。
- 「シーケンス」メニューから「シーケンス設定」を開く
- 「カラーマネジメント」タブで、作業用カラースペースやトーンマッピング設定を確認
- 「カラーマネジメント」タブで、カラー設定を選択します(例:ダイレクト録音 709 (SDR)、Rec.2100 HLG など)
- 「出力カラースペース」が希望の仕様(例:Rec.709)になっていることを確認します

この設定は、最終的な出力のカラースペース(レンダリングや書き出し時のベース)に影響します。たとえば、YouTubeや放送用途であればRec.709を選び、HDRコンテンツの場合はRec.2100(PQ/HLG)などが選択肢になります。
✅ 実例:リニアEXR素材やLog素材を正しく扱う
🔹 リニアEXRの取り扱い
CGなどから出力されたリニアEXR(scene-linear ACEScg)をPremiereで読み込むと、Premiereは自動的にRec.709として誤解釈することがあります。
この場合:
- 右クリック → 変更 → カラー
- 「メディアカラースペースを上書き」→ “scene-linear” もしくは “ACEScg” に相当する項目を選択
これで正しくリニアとして処理され、後工程の編集・グレーディングに耐える素材になります。
🔹 Log素材のLUT適用方法
Log素材(例:S-Log3、Canon Logなど)は、そのままPremiereに読み込むと、コントラストが極端に眠く見えることがあります。これを補正するには、LUT(Look-Up Table)を使うのが基本です。
LUTの適用手順:
- クリップをタイムラインに配置
- 「エフェクト」パネルから「Lumetri カラー」を適用
- 「Lumetri カラー」パネル内の「基本補正」セクションで「入力 LUT」を指定
- 使用するLog形式に応じた適切なLUT(例:Sony SLog3 to Rec709)を選択
これにより、Log素材は正しいトーンと色でPremiere上に展開され、後処理がしやすくなります。

よくあるミスと対策
ミス | 結果 | 対策 |
---|---|---|
カラースペースを上書きしない | 色が濁る/暗くなる/彩度異常 | 手動でカラー上書き設定を行う |
Log素材をLUTなしで扱う | コントラストが極端に眠くなる | LUTまたは入力カラースペースを明示指定 |
シーケンス設定と素材が不一致 | 出力で色ズレ・破綻 | シーケンスと素材の色空間を合わせる |
まとめ
Premiere Proでの編集作業では色空間を意識することなく作業が行えます。これは一般的な動画制作では良い仕様だと思っています。しかしながら、昨今ではカメラの性能が著しく向上したことでLog素材やこれまで扱ってきた色空間と異なる映像素材を扱う可能性も出てきています。そのような素材を扱う際に、色の解釈が大きくずれてしまうことがあり、こうしたトラブルを防ぐためには、Premiereにもカラーマネジメントの機能があることを理解し、クリップごとのカラースペース設定やシーケンスの作業空間・出力空間を適切に管理する意識が重要になってくると感じています。
色空間については、下記の記事にもまとめてあります。よろしければご参照ください。




