企業が持つ“眠れるデータ”を、AI時代の競争力へ変える
企業の製品写真やプロモーション映像は、本来大きな価値を持つにもかかわらず、多くが「一度使って終わり」になっています。撮影や編集に時間と手間をかけて作っているにもかかわらず、その後の活用は限定的というケースが少なくありません。
しかし、生成AIが実務レベルで活用され始めた現在、これらの映像は “次の価値を生むための資産” へと変わります。
企業はこれまで蓄積してきた映像データを、AIモデルの学習素材として再活用できます。
本記事では、映像を資産として捉える意義と、AI時代における活用方法について整理します。
映像が「資産」として価値を持つ理由
企業が過去に制作した映像には、多くの情報が含まれています。
- 製品の形状・寸法・質感
- ブランドの表現する雰囲気の可視化(光の当て方や色味なども含めて)
- 製品の使用シーン
- 背景やスタイリングの方向性
これらには、その企業の考え方や企業風土のようなものも含まれている、いわゆる企業の色と言われるものでもあります。
AIが学習する際、最も重要なのは「企業独自の情報をどれだけ含んでいるか」です。
その点で、既存の映像・写真は非常に優れた学習素材となります。
映像は単なる記録ではなく、
企業のブランド特徴そのものを内包したデータ資産
と言えるのです。
LoRAや専用モデルで広がる活用領域
AI画像・AI動画生成において、企業固有の表現を再現するための技術として LoRA や 専用モデル構築 が広がっています。これらは既存映像を学習することで、高い再現性を持った生成が可能になります。
学習することで可能になること
1. 新しい角度や背景での追加素材生成
撮影していない角度の画像も自然に生成でき、追加撮影の必要がなくなります。
2. 製品の派生モデルや仕様違いの可視化
企画段階の製品でも、既存映像をベースに高速に擬似ビジュアルを生成できます。
3. 動画広告の大量生成
多バリエーションの動画を短時間で生成でき、広告のA/Bテストにも最適です。
4. ブランドイメージの統一性向上
専用モデルによって、制作者が変わってもビジュアルの統一性を保てます。
映像を学習すれば、
映像資産 → AIモデル → 新しい映像資産
という循環が生まれます。
映像を資産化することはコスト削減につながる
映像制作は、撮影機材、スタジオ、照明、スタッフなど、多くのコストがかかる工程です。
しかし、映像資産をAIに学習させておくと、以下のような効率化が可能になります。
- 補完素材をAIで生成できる
- 少量の新規撮影で多くのバリエーションを展開できる
- モデル化によって撮影回数が減らせる
- 製品更新ごとに撮り直す必要が減る
映像を「一度使って終わり」ではなく、未来の制作費を下げる投資として扱えるようになります。
具体例イメージ
具体例1:工業製品の映像をAIに学習させるケース
| 課題 | 毎回金属加工品を撮影するのが大変。形状が複雑で撮り直しが多い。 |
| 映像資産の活用 | 過去の撮影済み映像+カタログデータをAIに学習 → 未撮影角度の画像や、使用シーンのイメージカットを生成可能。 |
| 結果 | ・撮影費の削減 ・仕様変更時の追加素材を即時生成 ・営業資料の更新が高速化 |
具体例2:医療機器の販促映像をAIで拡張
| 課題 | 医療機器は現物撮影の制約が多く、動作シーンの再現が難しい。 |
| 映像資産の活用 | 既存のプロモ映像をLoRA学習 → 別アングルの画像、操作説明用の追加カットをAIで生成可能。 |
| 結果 | ・説明資料がわかりやすくなる ・動画バリエーションを簡単に追加 ・製品の専門性をより高く見せられる |
具体例3:展示会映像(販促用)の二次利用で販促強化
| 課題 | 展示会のために作った映像が、その後ほぼ使われていない。 |
| 映像資産の活用 | 展示会映像をAI学習 → 補足カットや解説用の動画、短尺広告動画を追加生成。 |
| 結果 | ・展示会以外でも大活躍 ・Web、商談、SNSなど多用途展開 ・元の映像投資の価値を最大化 |
具体例4:ブランド世界観をAIモデル化して統一化
| 課題 | カタログ、SNS、LPごとにテイストがバラバラでブランド統一感が弱い。 |
| 映像資産の活用 | 過去の撮影素材。カタログを学習し「ブランド世界観モデル」を構築 → 誰が作っても同じトーン・光質・スタイルで生成可能。 |
| 結果 | ・ブランド統一度が向上 ・SNS向けビジュアルを大量に生成 ・広告運用のA/Bテストにも活用 |
AI検索時代における映像資産の重要性
今後は、企業の情報をAIが統合し、検索結果や要約を生成する時代になります。
そのとき企業として公にできる映像・画像をどれだけ保有しているが重要になると思われます。AIは、企業が公開している画像・映像を学習し、その企業をどのように理解するかを判断します。ブランドを正しく伝える映像を持つ企業は、AI検索時代において、ブランディングでも明確に有利になると考えられます。
フィジカルアイが支援できること
当社では、企業が保有する映像資産を最大限に活用するために、以下の支援が可能です。
- 過去映像・画像のAI学習適性チェック
- 学習用データセットの最適化
- LoRA / 専用モデル構築
- 映像資産を活用した追加画像・動画生成
- 映像資産を活かした継続的な販促支援
単なる「映像制作会社」ではなく、映像資産を未来につなげる技術パートナー として支援することが可能です。
まとめ
企業がこれまで蓄積してきた映像・画像は、生成AIの登場によって、改めて大きな価値を持ち始めました。
それらは単なる制作物ではなく、企業の独自性をAIに学ばせるための重要な資産 です。
映像を資産として扱い、AIを組み合わせて運用することで、マーケティングの可能性は大きく広がり、制作コストの最適化にもつながります。
映像を「使い捨て」から「資産」へ。
AI時代の競争力を高める第一歩として、映像資産の見直しを始めてみてはいかがでしょうか。

石水修司 株式会社フィジカルアイ代表/Adobe Community Expert
ベーマガに熱中した少年時代から、ベーカム時代の映像制作を経て、現在は3DCG・VFX・生成AIを融合した映像表現を手がける。Lancer of the Year 2016、CGWORLD「CGごはん」選外優秀賞。今治市在住。