はじめに
現在の生成AIで、テキストプロンプトだけから画像を作ろうとすると、
なかなか狙った構図にならなかったり、キャラクターやオブジェクトの形状が毎回微妙に崩れたり、シーンごとに雰囲気がバラついてしまうことがあります。特に「城」「建物」「機械」など構造が複雑なモチーフでは、その傾向が強く感じられるのではないでしょうか。
ひたすらプロンプトを練り直したり、Nano-banana のような編集ツールで形を微調整していく方法もありますが、今回は少し発想を変えて、「ラフなCG画像をベースに、一貫性のあるAI動画を作る」 ワークフローをご紹介します。
題材は「豊臣時代の大坂城の天守」。
CGラフで大まかな構図と造形を決めてから、Adobe Firefly と Nano-banana を組み合わせて、アングル違いの静止画を作り、それを元に動画化していきます。
FireflyとCGラフを組み合わせる理由
テキストだけで画像生成を完結させようとすると、どうしても「構図」と「造形」のコントロールが難しくなります。そこで、あらかじめラフなCGでカメラ位置やシルエットを決めておき、Fireflyには「質感とディテール」を担当させる、という役割分担をします。
この方法を取ると、
- カメラの位置や画角、パースが安定しやすい
- どのカットも「同じ城」に見えやすい
- 一からフルCGを作り込むよりも、短時間で映像化できる
といった効果が得られます。
「フルCG」か「生成AI」か、どちらか一方に振り切るのではなく、両者の得意な部分だけを引き出して組み合わせるイメージです。
ワークフロー全体の流れ
今回ご紹介するワークフローは、次の5ステップです。
- ラフなCGラフを用意する
- Nano-bananaで基準画像を整える
- Fireflyでアングル違いの静止画を生成する
- 静止画をスタートフレームにしてAI動画を作る
- After Effects(またはPremiere)で一本の映像に仕上げる
ここからは、それぞれのステップをもう少し詳しく見ていきます。
STEP1:ラフなCGラフを用意する
最初に行うのは、ベースとなるラフなCGデザイン画像(CGラフ)を用意することです。
今回のテーマである「豊臣時代の大坂城の天守」では、天守の大まかなシルエットやボリューム、天守台や石垣、屋根の重なり方などを中心に作り込みます。
この段階で、質感や細かい装飾を完璧に仕上げる必要はありません。むしろ「構図」と「造形」を優先し、カメラの高さや画角、見上げか俯瞰かといった視点をしっかり決めておくことが重要です。
あとでFireflyに渡すことを考えると、「このシルエットで、このパース感を維持したい」という情報がCG側で明確に出ていると、その後の工程が安定します。

STEP2:Nano-bananaで基準画像を整える
次に、そのCGラフを Nano-banana に読み込み、Fireflyに渡すための「基準画像」に仕上げていきます。
ここでは、形状のバランスを微調整し、破綻している部分を整え、ざっくりとした光の方向や背景の雰囲気を作っておきます。豊臣時代の大坂城であれば、金箔の装飾や重厚な石垣など、「らしさ」が伝わるポイントを意識して編集すると、後のAI生成で狙った方向に寄せやすくなります。
この「基準画像+プロンプト」のセットが、以降のすべてのカットの“基準点”になります。

STEP3:Fireflyでアングル違いの静止画を生成する
Nano-bananaで整えた数枚の候補の中から、ディテールが良く、バランスも整っている1枚を「基準画像」として選びます。
装飾の入り方、光の回り方、全体の雰囲気などを見ながら、「この世界観で全カットを揃えたい」と思える1枚を軸にします。そのうえで、同じシーンからカメラの角度・距離を変えたアングル違いの静止画をFireflyに生成させていきます。
ヨリのカット、見上げるカット、少し引きのカットなど、映像にしたときに必要になりそうな構図を意識してバリエーションを作っておくと、後の編集がスムーズです。
STEP4:静止画をスタートフレームにしてAI動画を生成する
アングル違いの静止画が揃ったら、それぞれをスタートフレームとしてAI動画を生成します。
カメラがゆっくり前進するショット、わずかに回り込むショット、空の雲だけがゆっくり動いているショットなど、静止画だけでは伝えきれない「時間の流れ」や「スケール感」を動画側で補っていきます。
STEP5:After Effects(Premiere)で一本の映像に仕上げる
最後に、生成されたAI動画の各カットをAfter EffectsやPremiere Proに読み込み、一本の映像としてまとめます。
カット間のつながりを見ながら不要な部分をトリムし、色味や明るさを全体で揃え、必要に応じて手ブレ補正や速度調整を行います。タイトルやテロップを入れれば、作品としての完成度も上がります。
CGとAIで作ったとはいえ、最終的な「作品」の仕上がりは、この編集工程で大きく変わります。従来の映像制作と同様に、一本の映像としてのリズムと見せ場を意識して組み立てると、説得力のある仕上がりになります。
まとめ
この記事では、ラフなCGラフを出発点にして、Adobe Fireflyを活用し一貫性のあるAI動画を作るワークフローを紹介しました。今回のワークフローでは最初から最後までフルCGで作り込むのではなく、
- 構図と造形はCGでしっかり押さえ
- 質感とディテールはFireflyに任せ
- 動きと編集は動画ツールで整える
という役割分担にすることで、制作時間を抑えつつ、世界観のブレない映像に仕上げることができました。
Fireflyをはじめとする生成AIツールは、「従来のCG制作を置き換えるもの」ではなく、CG資産や簡易レンダリングのラフモデルを活用して仕上げのクオリティとスピードを一気に引き上げるためのパートナー として使っていく。そんな使い方が出来るということの一例になるのではないかと思います。
AIの進化は速く、どんどん出来ることが広がっていきます。楽しみですね。

石水修司 株式会社フィジカルアイ代表/Adobe Community Expert
ベーマガに熱中した少年時代から、ベーカム時代の映像制作を経て、現在は3DCG・VFX・生成AIを融合した映像表現を手がける。Lancer of the Year 2016、CGWORLD「CGごはん」選外優秀賞。今治市在住。