
機械や工業製品のプロモーション映像を制作する際、製品の形状や構造をどのように表現するかは重要なポイントになります。
特に機械や装置の場合、外観だけでなく内部構造やパーツの組み合わせなど、形状を正確に表現することが映像の説得力を大きく左右します。
その形状を最も正確に表現できるデータが、設計で使用されているCADデータです。
メーカー企業の場合、その製品の形状データはすでに社内に存在していることがほとんどです。設計部門で使用されているCADデータです。
このCADデータは本来、設計や製造のためのデータですが、実は3DCG映像制作にも活用することができます。
CADデータを活用して映像制作を行うことで、製品形状を正確に再現できるだけでなく、モデリング作業を削減できるため、制作精度・制作コスト・制作期間の面でメリットが生まれるケースが多くあります。
この記事では、CADデータを映像制作に活用するとどのようなことが可能になるのか、メリットと注意点を整理して解説します。
CADデータとは何か(簡単に)
CADとは、製品や部品の形状・寸法を正確に表した図面を作成する為のソフトウェアです。製造業の設計・開発部門では広く使われています。これで作られたデータがCADデータであり、設計図面と呼ばれるものに該当します。
CADは、大きく分けて2D-CADと3D-CADの2種類があります。この違いが、映像制作への活用可否に直結するため、最初に整理しておきます。
2D-CADとは、図面を平面(縦・横の2次元)で描くソフトウェアです。AutoCADやJw_CADが代表的で、設計図・施工図の作成に今も広く使われています。2-DCADのデータは平面の線情報しか持っていないため、3DCG制作に直接活用することはできません。参考資料として形状の確認に使うことはありますが、そこからモデリングを行う必要があります。
3D-CADとは、製品の形状を立体(X・Y・Z軸の3次元)でデータ化するソフトウェアです。SolidWorks、Fusion 360、CATIA、Inventorなどが代表的で、機械・装置・医療機器など製造業の3D設計に使われています。この3D-CADのデータであれば、製品の正確な形状・構造・寸法情報を3DCG用に変換できます。
つまり、CG制作に活用できるのは3D-CADのデータに限られます。社内にCADデータがある場合は、それが「3D-CADで作られたデータかどうか」を確認いただくのことが必要になります。
CADデータを使うと何が変わるか
制作精度が上がる
CADデータがない場合、3DCGのモデルは写真・図面・カタログをもとに、制作者が形状を推測しながら作ることになります。この場合、図面から読み取れない微妙なカーブや曲線などは正確に再現できない可能性が少なからずあります。
CADデータがあれば、製品の正確な形状をそのまま3DCGに変換できますので、展示会や営業資料で使う映像として、製品の寸法・構造・動作を正確に伝えることが出来ます。
制作期間が短縮される
モデリング(3DCGの形状を作る工程)は、制作工程の中でも特に時間がかかる部分です。CADデータを活用することでこの工程を大幅に短縮できるため、納期を短くすることができます。
展示会の直前など、時間的な余裕がない状況でも、CADデータがあることで対応できるケースが増えますので、早めにご相談いただければと思います。
費用が抑えられる場合がある
モデリングにかかる工数が減る分、制作費用を抑えられるケースがあります。
ただし、CADデータの種類や状態によっては変換作業が必要になる場合もありますので、「必ず安くなる」とは言い切ることは難しいのですが、少しでも費用を抑えたい場合は、検討してみるべき項目とも言えます。
フィジカルアイで対応しているファイル形式
フィジカルアイでは、制作ツールとしてCinema 4D(C4D)を使用しています。対応しているファイル形式は以下の通りです。
CAD系フォーマット(3D-CADデータの受け渡しに使用)
- STEP(.stp / .step)
- IGES(.igs / .iges)※一部非対応の形式あり
- SolidWorks(.sldprt / .sldasm)
- CATIA
- DWG(AutoCAD)
- JT(Siemens NX、Creo等)
- SketchUp(.skp)
汎用3Dフォーマット(他の3DCGソフトやゲームエンジンとの連携に使用)
- OBJ(.obj)
- FBX(.fbx)
- STL(.stl)
- Alembic(.abc)
- Collada(.dae)
- glTF / GLB(.gltf / .glb)
- 3DS(.3ds)
中間フォーマットでの受け渡しがおすすめな理由
ご依頼をいただく際、CADデータをネイティブフォーマット(SolidWorksやCATIAそのままのファイル)でお送りいただくケースがあります。しかし、フィジカルアイではCADソフトを使用していないため、ネイティブフォーマットを正しく読み込めているかどうかを検証する手段がありません。そのため、ネイティブフォーマットではなく中間フォーマットでのご提供をお願いしております。
STEPやIGESといった中間フォーマットであれば、これまでの制作実績の中で対応できることを確認しています。
ネイティブフォーマットでお送りいただいた場合、中間フォーマットへの変換をお願いするやり取りが発生し、その分スタートが遅れてしまいます。最初からSTEPまたはIGES形式でお送りいただくことで、スムーズに制作を進めることができます。設計部門への依頼時に「STEP形式またはIGES形式で書き出してほしい」とお伝えいただければと思います。
また、上記のリストに含まれていないCADソフト(Fusion 360、Inventor、Creoなど)をお使いの場合でも、ほとんどの主要3D-CADソフトはSTEPやIGES形式へのエクスポートに対応しています。設計部門に中間フォーマットで書き出してもらうことで、同様に活用できますので、ご安心ください。
過去には、3DCGソフトのShade3Dで作成したデータをお持ちのお客様からご相談をいただいたことがあります。そのケースでは、ソフトがすでに手元になく対応フォーマットへの変換ができない状況でしたので、残念ながら対応が難しい場合もあります。ただ、どのような状況であれ、まずはご相談いただくことで、一緒に解決策を探すことができます。「うちのデータが使えるかどうかわからない」という段階からでも、お気軽にご連絡ください。
CADデータを使う際の注意点
データ量と変換作業について
中間フォーマットで必要なパーツだけを書き出していただいた場合でも、製品の複雑さによってはデータ量が大きくなることがあります。その場合、軽量化・最適化の作業が必要になることがあり、別途費用・工数がかかる場合がありますので、事前にご確認いただければと思います。
機密情報の取り扱い
CADデータには、製品の詳細な構造・寸法情報が含まれています。社外秘・未発表製品のデータをお預かりする場合は、NDA(秘密保持契約)を締結した上で進めることも可能ですので、安心してご相談ください。
CADデータ以外を制作してクオリティを高める
CADデータで製品の外観・構造を正確に再現した上で、CADデータには含まれていない要素(流体の動き、煙・熱・光といったエフェクト、動作シーンの演出など)をフィジカルアイ側で付与することができます。製品の「形」だけでなく、「働き」や「効果」を映像で伝えることで、見た人が直感的に理解できるコンテンツに仕上げることができます。
CADデータはあくまで出発点です。そこに動きと意味を加えることが、私たちの仕事だと思っています。
CADデータがない場合はどうなるか
CADデータがなくても、3DCG動画の制作は可能です。その場合は、以下の素材をもとにモデリングを行います。
- 製品の写真(複数アングル)
- カタログ・仕様書に掲載されている図面
- 手書きのスケッチやメモ
ただし、CADデータがある場合と比べると、モデリングに時間がかかるため、費用・納期に影響が出ます。また、複雑な形状の場合は精度に限界が出ることもあります。「データはないが映像を作りたい」という場合も、まずはご相談ください。
まとめ
CADデータは製品の形状を正確に表現するために必要なデータになります。しかしながらその扱いについては専門性が高く求められるような印象があるのではないでしょうか?
その専門性が高いファイルであるからこそ、クオリティの高い映像には必要となり、またその扱いにおいても一朝一夕にはいかない部分もあります。ただ、その扱い方さえ理解していれば、そのデータの精度にふさわしい映像が出来上がるのも事実です。
この記事でお伝えしてきたように、CADデータには種類があり、フォーマットにも注意が必要です。しかしそれは、事前に知っておけば対処できることばかりです。CADデータがある場合も、ない場合も、まずは現状をお聞かせください。状況に応じた進め方を、一緒に考えさせて頂きます。
CADデータと映像制作の関係は、思っているよりもシンプルで、3D-CADで作られたデータがることで制作の大きな出発点にもなり得ます。フォーマットや状態がわからなくても、まずはご相談いただければ一緒に確認します。
「うちのCADデータが使えるかどうかわからない」「どんなフォーマットで渡せばいいかわからない」——そういった段階からでも、遠慮なくご連絡ください。状況を整理するところからお手伝いします。
フィジカルアイへのご相談

石水修司 株式会社フィジカルアイ代表/Adobe Community Expert
ベーマガに熱中した少年時代から、ベータカム時代の映像制作を経て、現在は3DCG制作のプロとして生成AI技術を活用した映像表現を手がけている。
Lancer of the Year 2016、CGWORLD「CGごはん」選外優秀賞。今治市在住。