流体という言葉は日常的にあまり使われていないと思います。しかし流体の現象は様々な場面で目にしています。
水が流れるとき、煙が天井に向かって広がるとき、蜂蜜がスプーンからゆっくりと糸を引くとき——私たちはそれを「当たり前の現象」として見過ごしています。しかしその一つひとつが「流体」の物理的な現象であり、私たちの身の回りに溢れています。
この記事では、流体の基礎的な性質を、映像制作者の視点から整理します。
流体とは何か——定義と分類
流体とは、一定の形を持たない物質の総称です。力が加わると変形し、力がなくなっても元の形には戻らない——液体と気体がこれにあたります。固体との最も大きな違いはここにあります。
そして、同じ流体でも、液体と気体では挙動が異なります。
液体は体積がほぼ一定です。コップに注げばコップの形に変化しましすが、量は変わりません。また表面には表面張力が働き、コップの形からはみ出た部分がすぐにこぼれるのではなく、液体同士が引き合う力を持つため、ある程度表面が丸くなることで形状を止めようとする力が働きます。これにより水滴が丸い形になります。雨粒が球形に近い形をしたり、テーブルの上にこぼれた水が丸や少し盛り上がっている状態になるのも同じ理由です。
そのような液体に対して、気体は体積が変わります。また表面張力を持たないため、広がっていきます。煙が広がったり、香りが部屋中に届くのも、この性質によるものです。

粘度——流体の粘り気を表す物性値
粘度とは、流体の粘り気の度合いを表す物性値です。粘度が高いほど粘り気が強く、低いほど粘り気が弱くなります。
水は粘度が低くさらさらと流れますが、蜂蜜や水飴は粘度が高いため、傾けてもゆっくりとしか動きません。同じ「液体が流れる映像」でも、粘度の設定ひとつでまったく別の物質に見えます。
粘度は温度によっても変わります。一般に液体は温度が上がると粘度が下がり、流れやすくなります。冷えた食用油はどろりとしていますが、温めるとさらっとするのはこのためです。
層流と乱流——同じ「流れ」でも、まったく別の状態
流体の流れには2つの状態があります。層流と乱流です。
層流は、流体が整然と平行に流れる状態です。蛇口からゆっくり水を出すと、糸のように透明に流れます。あれが層流です。流れの各部分が互いに混ざり合わず、規則正しく移動しているため、流れの方向や速度が予測しやすくなります。
乱流は、流れが乱れて渦や混合が生じる状態です。川の急流や、煙突から出た煙が広がりながら乱れていく様子がそれにあたります。エネルギーが高く、流れの細部を予測することが難しくなります。
どちらになるかは、流速・粘度・密度・流路の形状などによって変わります。
拡散と混合——広がり、混ざる仕組み
拡散とは、物質が自然に広がっていく現象です。外から力を加えなくても、流体は周囲へ広がろうとする性質を持っています。
混合とは、流体が触れ合い、やがて均一になっていく過程のことです。拡散は混合の一形態ですが、かき混ぜたり対流が起きたりすることで、混合は速く進みます。拡散は「自然に広がる現象」、混合は「物質が均一化に向かう過程全体」と整理できます。
流体の動きを伝えるための表現
流体の動きを言葉で説明しようとした場合、「流れる」「広がる」「混ざる」という言葉を用いますが、複雑な流体の動きを表現するにはこれらだけでは難しい場面が多いように感じます。
静止画では一瞬しか切り取れず、動きが消えます。流体は時間とともに変化し続けるものであり、その動きを正確に伝えるには、動きのある表現方法が必要になってきます。
一方で、流体を専門的に表現する方法として、CFD解析と呼ばれる技術があります。CFD(Computational Fluid Dynamics:数値流体力学)は、流体の動きをコンピュータで計算し、色や図形で視覚化する技術です。設計者や研究者が現象を正確に理解するための、強力な手段で、学術的に正確な表現が可能になります。しかしながら、CFD解析は専門性が高く、その結果を見て流れを直感的に把握するのは難しいということも否めず、営業資料・展示映像・患者向け説明など、専門外の人に伝える場面では、別のアプローチが必要です。
流体CGとは何か——映像表現としての定義
流体CGとは、流体の挙動を物理演算によって再現し表現したコンピュータ映像です。流体という現象を、専門知識がなくても伝わる映像にするための表現手段のひとつです。
物理演算では、粒子単位で重力・粘度・表面張力・乱流といったパラメータを設定します。この記事で説明してきた流体の性質(粘度・層流と乱流・拡散)をすべて、設定値として扱います。このため液体は液体らしく、気体は気体らしく再現できようになります。
流体CGは、「見た人が理解できる映像」を作ることが目的であり、目的と用途に応じてシミュレーションの精度を調整しながら、表現力とコストのバランスを取って制作を行っていきます。その際に、表現したいものだけにフォーカスすることも、特定の要素だけを除くことも可能になります。
流体CGで表現できる物質は幅広くあります。
| 形状・性状 | 特徴・表現内容 |
|---|---|
| 液体 | 水・油・薬液・血液・飲料・化粧品原料など。粘度や表面張力の設定次第で、 まったく異なる質感になります |
| 気体 | 煙・蒸気・排気ガス・炎・空気の流れなど。体積として扱われるため、 空間に広がる表現が得意です |
| 粉体 | 粉末・粒子・砂など。液体シミュレーションのパラメータを調整することで、 粉体特有の堆積・流動・拡散を再現します |
| 複合表現 | 液体と気体が共存する場面(水面・泡・飛沫)や、 液体と固体が相互作用する場面も表現できます |
流体CGはどこで使われるか——活用領域の整理
流体CGは、流体の挙動をわかりやすく表現したい場面で力を発揮します。
産業機械・工業製品: タービン内部の気体の流れ、エンジンの燃焼と排気、冷却水の循環など。設計図や断面図では伝わらない「動き」を映像にします。営業資料・展示映像・技術説明コンテンツとして活用されています。
医療・ヘルスケア: 血液の流れ、薬液の拡散、体内での気体挙動など。実写では撮影できない現象を映像にします。医療従事者・患者・一般向けの説明映像として使われています。
広告・プロモーション: 製品の成分や効果を流体の動きで表現することで、視覚的なインパクトと情報伝達を両立した映像を制作できます。
流体CGの活用分野と制作の詳細については、流体CGとは?映像制作で使われる理由と得意な分野を解説をあわせてご覧ください。

まとめ——流体の性質と、映像表現としての流体CG
流体には、粘度・層流と乱流・拡散と混合といった固有の性質があります。これらの性質を理解することが、流体を映像として正確に表現するために必要となります。
フィジカルアイでは、こうした流体の特性を踏まえた上で、最適な表現方法を選択し演出しています。物理的に正しい動きを基準に置きながら、見る人に伝わる映像として仕上げていくことで、リアルに感じ、素直に理解できる映像が出来上がるのです。
流体CGは、流体の挙動を視覚的に表現する手段として、非常に優れた可能性を持っていると考えています。目に見えない動きを、見える形にする。その力を最大限に引き出すことが、フィジカルアイの目指すところです。
よくある質問(FAQ)

石水修司 株式会社フィジカルアイ代表/Adobe Community Expert
ベーマガに熱中した少年時代から、ベータカム時代の映像制作を経て、現在は3DCG制作のプロとして生成AI技術を活用した映像表現を手がけている。
Lancer of the Year 2016、CGWORLD「CGごはん」選外優秀賞。今治市在住。