動画が「伝わらない」のは構成の問題——インストラクショナルデザインという考え方

丁寧に作ったはずの動画が、なぜか伝わらない——その原因の多くは、情報の中身ではなく「順序」と「量」にあります。
本記事では、伝わる動画を設計するための方法論「インストラクショナルデザイン」の基本的な考え方と、製品紹介動画や技術解説動画の構成にどう活かせるのかを、発注側の視点で解説します。

目次

丁寧に説明したのに、伝わっていなかった

製品や技術について、時間をかけて丁寧に説明したのに、後で相手に確認してみると、肝心なところが伝わっていなかった——そんな経験はないでしょうか。

動画でも同じことが起こります。展示会で流した製品紹介動画、営業先で見せた技術解説の動画。内容はきちんと盛り込んだはずなのに、見た方の反応が薄い。「で、どういう製品なんですか」と、動画で説明したはずのことを改めて聞かれてしまう。

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いまは動画の活用が当たり前になり、作ること自体のハードルはずいぶん下がりました。だからこそ、動画の成果を分けるポイントは「作れるかどうか」から「伝わるかどうか」——つまり構成の設計に移ってきています。

この記事では、動画が伝わらない原因がどこにあるのかを整理し、それを設計で解決するための考え方「インストラクショナルデザイン」をご紹介します。読み終えたときに、「伝わらない原因は情報の中身ではなく、順序と量にある」という視点をお持ち帰りいただければと思います。

なぜ丁寧に説明しても伝わらないのか——原因は「順序」と「量」

伝わらなかったとき、私たちはつい「説明が足りなかったのでは」と考えて、情報を足したくなります。しかし多くの場合、原因は逆のところにあります。

たとえば、ある産業機械の紹介動画で、次のような構成を考えてみてください。

冒頭で製品名と型番。続いて主要スペックの一覧。そして内部機構の説明に入り、独自技術の解説が続き、最後に「お問い合わせはこちら」。

作る側からすると、伝えるべきことを漏れなく並べた、誠実な構成です。しかし初めてこの機械を見る方の頭の中では、別のことが起きています。スペックの数字は、それが自分の課題とどう関係するのか分からないまま流れていきます。内部機構の説明が始まる頃には、そもそもこの機械が何をするものなのかがまだ掴めていない。真面目に見ようとするほど、処理が追いつかなくなっていきます。

では、同じ内容をこう並べ替えるとどうでしょうか。

冒頭で、この機械が使われている現場の映像と、そこで起きている課題。次に、この機械を導入すると現場がどう変わるか。そのうえで「なぜそれができるのか」として内部機構と独自技術へ。スペックは、その裏付けとして最後に。

盛り込まれている情報はほとんど同じです。違うのは届く順番と、一度に届く量だけ。それでも、見る方の頭への残り方は大きく変わります。

同じ内容でも、並べ方と量の配分次第で「伝わる」ことも「伝わらない」こともある——これが、この記事で一番お伝えしたいことです。

インストラクショナルデザインとは何か

この「順序」と「量」を、感覚ではなく手順として設計するための方法論が、教育の分野にあります。インストラクショナルデザイン(Instructional Design、IDと略されます)です。

インストラクショナルデザインとは、平たく言えば「学習用の教材を、より効果的に理解するための組み立て方」です。教えるべきことを整理して並べるだけでなく、学ぶ側の理解のステップに合わせて内容を分けたり、順番を組み替えたり、振り返りを挟んだりしながら、全体を設計していきます。

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その中心には、シンプルな基準があります。

「教えたかどうか」ではなく、「学べたかどうか」。

伝える側がどれだけ話したかではなく、受け取る側に何が残ったかで判断する。冒頭の「説明したのに伝わっていなかった」という出来事は、この基準で見ると「教えたが、学べていなかった」状態だと言えます。

そして、製品紹介や技術解説の動画をご覧になる方は、多くの場合、知りたいことや解決したい課題があって見ています。その状況は「学ぶ人」にとても近く、動画の役割も「見せること」より「分かっていただくこと」に重心があります。教育のために磨かれてきたIDの考え方が動画の構成にそのまま活きるのは、このためです。

IDの考え方は3つに整理できます

1. ゴールから逆算する

IDでは、内容を考える前に「受け取った人が、最後に何を分かっていればよいか」を先に決めます。

ゴールの立て方には、実務で使える目安があります。「見終わった人が、社内で一言、何と報告できればよいか」を考えることです。「新しい機械の紹介を見た」では報告になりません。「段取り替えの時間を半分にできる機械があるらしい」なら、報告になります。この一言が決まれば、盛り込む情報の取捨選択に迷いがなくなります。逆にゴールが曖昧なまま作り始めると、「せっかくだからあれも」と情報が増え、結果としてどれも残らない動画に近づいていきます。

2. 相手が知っていることから始める

新しい情報は、それ単体ではなかなか頭に残りません。すでに知っていることに結びついたとき、はじめて定着します。

だから説明の順序は、「相手が知っていることから、知らないことへ」「全体から、細部へ」。先ほどの構成の並べ替えで、現場の映像と課題から入ったのはこのためです。見る方がすでに知っている風景(自分の現場、自分の困りごと)を足場にして、そこに新しい情報を一段ずつ載せていきます。

では、相手が何を知っているかをどう調べるか。ヒントは意外と身近にあります。営業の場でよく受ける質問、展示会で初見の方が最初に口にする言葉、商談で毎回説明に苦労する箇所。これらは「相手の既知と未知の境目」がどこにあるかを教えてくれる、貴重な手がかりです。

3. 一度に伝える量を絞る

人が一度に受け取れる情報量には、はっきりとした限りがあります。たくさん見せるほど伝わるのではなく、一度にたくさん見せるほど、かえって残らなくなります。

動画には、この点で気をつけたい癖があります。映像・ナレーション・テロップ・BGMと、複数の経路で同時に情報を届けられてしまうことです。たとえばナレーションと同じ文章をテロップで全文表示すると、見る方は「読む」と「聞く」を同時に行うことになり、どちらも残りにくくなります。テロップはキーワードに絞る。一つの画面で伝えることは一つにする。情報を意味のまとまりごとに区切り、ひとつずつ順番に届ける。地味な工夫ですが、受け取りやすさに最も効いてくる部分です。

ここまでのポイント

一度整理します。

  • 動画が伝わらない原因は、情報の中身より「順序」と「量」にあること
  • それを設計する方法論がインストラクショナルデザインであり、基準は「学べたかどうか」であること
  • 考え方は「ゴールから逆算する」「知っていることから始める」「量を絞る」の3つであること

この3つを持って、動画ならではの話に進みます。

動画こそ、この設計が必要です

対面の説明であれば、相手の表情を見て補足したり、質問を受けたりできます。しかし動画は一方通行のメディアです。見る方が途中で分からなくなっても、その場で助ける手段がありません。だからこそ、どの順番で、どれだけの量を届けるかを、あらかじめ設計しておくことが大切になります。

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一方通行であることを補う技法も、IDから導かれます。章の区切りごとに小まとめを挟んで、見る方が情報を整理する時間をつくること。そして最後に要点の振り返りを置いて、持ち帰ってほしいことをもう一度手渡すこと。質問ができないメディアだからこそ、整理と復習をあらかじめ動画の中に組み込んでおくわけです。

そして3DCGは、この設計と特に相性の良い表現手段です。

CGでは、カメラの視点を自由に設定できます。筐体を透過させて内部を見せることも、注目してほしい部分だけを強調することも、実写では撮影できない流体の挙動を可視化することもできます。見せ方の選択肢が非常に豊富なのです。

選択肢が豊富だからこそ、「その中から何を、どの順番で、どれだけ見せるか」という設計の質が、そのまま動画の質になります。たとえばポンプの紹介動画なら——まず実写で使用現場と課題を見せ(知っていることから)、CGの透過表現で内部構造へ入り(全体から細部へ)、流体シミュレーションで内部の流れを可視化して独自技術の効果を一点だけ強調する(量を絞る)。章の区切りで小まとめを挟み、最後に要点を振り返って締める。IDが構成の設計図となり、CGがそれを実現する表現力になる。この組み合わせが、「見える」だけでなく「伝わる」動画につながります。

おわりに

今回お伝えしたことは3つです。

動画が伝わらない原因は「順序」と「量」にあること。それを設計する方法論としてインストラクショナルデザインがあること。そして、一方通行のメディアである動画こそ、この設計が効くこと。

次に動画をご覧になるとき、あるいは作られるとき、「これは誰が知っていることから始まっているか」「一度に届く量は絞られているか」という目で見てみてください。伝わる動画と伝わらない動画の違いが、少し見えてくるはずです。

より具体的な話は、続けて以下の記事をご覧ください。

  • 動画の構成を5つの段階に分ける具体的な手順は「[動画におけるインストラクショナルデザイン(2)]」で紹介しています
  • 制作の実務でIDをどう活かすかという視点は「[「伝わる映像」は設計で決まる:映像制作におけるインストラクショナルデザインの活用法]」にまとめています

弊社では、このインストラクショナルデザインの考え方を映像の構成設計に取り入れています。複雑な製品や技術を「どう伝えるか」でお悩みの際は、お気軽にご相談ください。

よくあるご質問

製品紹介動画の構成で、最初に決めるべきことは何ですか?

盛り込む内容ではなく、ゴールを先に決めることをおすすめします。目安は「見終わった人が、社内で一言、何と報告できればよいか」です。この一言が定まると、情報の取捨選択と説明の順序が自然に決まっていきます。

研修動画やマニュアル動画にもインストラクショナルデザインは有効ですか?*

有効です。IDはもともと教育・研修のための方法論なので、研修動画や動画マニュアルはむしろ本来の適用分野です。「知っていることから始める」「一度に伝える量を絞る」「区切りごとに整理する」という考え方は、操作説明や安全教育の動画で特に効果を発揮します。

情報を絞ると、伝えたいことが伝わらなくなりませんか?

逆です。人が一度に受け取れる情報量には限りがあるため、詰め込むほど、どれも残らなくなります。絞るのは「動画全体の情報量」ではなく「一度に届ける量」です。区切りながら順番に届ければ、結果として多くの内容を持ち帰っていただけます。

どんな動画にもインストラクショナルデザインは必要ですか?

すべてではありません。インパクトや認知の獲得が目的のCMなどでは、IDの出番は多くありません。IDが力を発揮するのは、製品紹介・技術解説・研修・マニュアルなど、「正しく理解していただくこと」が目的の動画です。詳しくは「[動画におけるインストラクショナルデザイン(1)]」で分野ごとに整理しています。

実際の映像制作では、構成を考える前に、目的・対象者・一番伝えたいことを整理する必要があります。
弊社では、お見積り用と企画用のヒヤリングシートを使い、必要な情報を段階的に確認しています。


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石水修司 株式会社フィジカルアイ代表/Adobe Community Expert
ベーマガに熱中した少年時代から、ベータカム時代の映像制作を経て、現在は3DCG制作のプロとして生成AI技術を活用した映像表現を手がけている。
Lancer of the Year 2016CGWORLD「CGごはん」選外優秀賞。今治市在住。

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